ブリヂストンは、自動車や航空機、産業機械向けの高性能タイヤを数多く展開し、グローバルに事業を展開してきました。しかし、タイヤに用いられるゴム素材は特性が極めて複雑で、開発には多くの試作や実験が必要となり、研究・製造の効率化が長年の課題となっていました。従来のアプローチでは、開発のスピードや精度に限界があったのです。
そこで同社は、デジタル技術の活用によってこの課題を克服しようと試みました。その鍵となるのが、AIやシミュレーション技術を用いて材料開発を支援する「マテリアルズインフォマティクス(MI)」です。
本記事では、ブリヂストンがMIを導入するに至った背景や、実際に生まれた技術成果、そして今後どのような展開を見据えているのかを、わかりやすく解説していきます。
ゴムは粘弾性を持ち、温度や速度によって硬さや伸縮挙動が変化します。この複雑さゆえに、試作と評価を何度も繰り返す必要があり、開発のサイクルが長期化しがちでした。特にCASE(コネクテッド、自動運転、シェアード、電動化)やMaaS(Mobility as a Service)に対応した次世代タイヤでは、従来のノウハウだけでは未知の環境や走行データに最適化するための材料設計が困難でした。
また、グローバルな拠点で分散していた実験データの管理も課題で、情報の一元化やリアルタイムな分析基盤が求められていました。こうした背景から、開発の迅速化と高精度化を同時に実現できるデジタル技術への注力が不可欠となりました。
MIを導入したことで、ブリヂストンは分子レベルでのシミュレーションによる素材・配合予測を進められるようになりました。具体的には、従来の実験では数カ月を要した配合検証を数日以内に試算できるようになり、開発サイクルが大幅に短縮されました。
ポリマー「SUSYM(サシム)」は、その代表例です。ゴムと樹脂の結合を分子モデルで解析し、未知素材開発を加速させたことで、世界初と謳われる性能を短期間で実現しました。また、鉱山機械向けタイヤ「マスターコア」や乗用車用タイヤ「ENLITEN」は、MIと高度設計シミュレーションの組み合わせにより、耐久性や転がり抵抗の最適化を両立させながら開発コストを抑制しています。
さらに、市場走行ビッグデータと独自アルゴリズムを統合し、摩耗予測や耐久予測では航空機整備の効率化にも貢献。日本航空との協業では、タイヤ摩耗予測技術を活用して整備作業の最適化を実現しました。
参照元:MONOist公式HP https://monoist.itmedia.co.jp/mn/articles/2009/16/news051_2.html
ブリヂストンはMIを軸に、材料開発のデジタル・スパイラルを構築しようとしています。今後は、国内外の技術拠点をつなぐ「Bridgestone Innovation Park」を核に、東京・小平やアメリカ・アクロン、イタリア・ローマの研究所と連携し、リアルな実験結果とデジタル解析を高速で行き来させる体制を強化予定です。
これにより、新素材の特性予測だけでなく、サービスやメンテナンス領域への応用も見据えた総合的なソリューション提供が可能になるでしょう。また、生成AIや強化学習を組み合わせた自律的な材料探索システムの開発も進む見込みで、より幅広い用途での性能最適化や環境負荷低減の実現が期待されます。
専門領域を持っているMIベンダーを厳選しました。
自社の研究対象に近しい領域を専門としているMIベンダーの方が、
コミュニケーションにズレがなく、知見や実績も豊富な可能性があります。
化学・素材分野で数多くの開発を成功に導いた実績があります。
日立グループ全体の強みを活かして材料開発を総合的に支援できることから、早期の市場参入を可能にします。
富士通では、創薬に特化したプラットフォームを用意。特許読解、法規制物質チェックにも一貫して対応可能。
特定の材料開発プロセスではなく、創薬研究プロセス全体のDXが叶う点も魅力です。
新しいエネルギー材料の特性を正確に予測する「Mat3ra」(旧Exabyte.io)プラットフォームを提供。
新しいバッテリー材料や軽量合金の開発をスピーディーに進められることが可能です。